ヤングケアラーの声なき声を聴き逃さないために
近年問題視されているヤングケアラー
近頃耳にする機会が増えたヤングケアラーという言葉。社会的に大きな課題になっていることは、令和2年度に行われた厚生労働省の調査結果でも裏付けられました。回答した中学2年生では17人に1人がヤングケアラーという回答結果になったのです。もちろんヤングケアラーそのものが悪いというわけではありません。大き過ぎる負担がのしかかっているかも知れないというリスクや、SOSを発信しにくい世の中に大きな課題があるのです。
①ヤングケアラーとは
- 障がいや病気のある家族に代わり家事をしている。
- 家族に代わり幼いきょうだいの世話をしている。
- 障がいや病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている。
- 目を離せない家族の見守りや声がけなどの気づかいをしている。
- 家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている。
- がん・難病・精神疾患などの慢性的な病気の家族の看病をしている。
- 障がいや病気のある家族の身の周りの世話をしている。
(厚生労働省HPより一部抜粋)
②令和2年度の厚生労働省調査結果の概要
調査に参加した中学校の46.6%、全日制高校の49.8%にヤングケアラーがいるという結果が公表されています。
「家族の中にあなたが世話をしている人は居ますか?」という質問に対し、「いる」と答えた中学2年生は5.7%。これは中学2年生の17人に1人が、何らかの理由で家族に対し日頃のケアを行っていることになります。
③ヤングケアラーが問題視される理由
- 家族へのケアが負担になり学校での遅刻・早退・欠席が増える。
- 勉強の時間が取れないなど学業へ専念できなくなる。
- 自分の中で出来る仕事の幅を狭めてしまい、就職に影響してしまう。
- 友人等とのコミュニケーションが取れる時間が少なくなり、人間関係に影響してしまう。
ヤングケアラーが感じる壁
ヤングケアラーに対してケアを行う時の注意点には実態を把握しにくいなどの課題があります。それは助けを求めにくい世の中になってしまっていることや、人と人とのつながりの希薄化、家族形態の変化など様々な背景が要因と考えられるはずです。
①周囲からの無意識圧力
大人や友人に相談しにくいと思ってしまう理由には、周囲の人の対応も影響しているようです。
- 周囲の人から「家族の状況を周りに話すな」と言われた。
- 勇気を出して話すと「辛いねぇ」という軽い感じの同情で終わった。
- 周囲の大人に見て見ぬふりをされた。
②自分や家族の気持ちが影響
- 自分の家族のことを周りに知られることに抵抗がある。
- 家族が周囲の人から支援されることに抵抗がある。
- 自分でどうにかしないといけないという過剰な責任感がある。
②相談しにくい・・・・・・・(約28%)
③相談する必要が無い・・・・(約25%)
※複数回答
ヤングケアラー支援の先進地「イギリス」
日本ではようやくヤングケアラーという言葉を聞くようになりましたが、イギリスでは1990年代初めからこの言葉が使われるようになりました。ヤングケアラーという言葉もイギリス発祥とされています。今ではイギリスがヤングケアラー支援の先進地とされていますが、それでもまだまだ課題があると言われています。
イギリスでの支援の流れ
1980年代末から問題提起が始まり、90年代半ばで全国規模の調査が実施されました。ヤングケアラーは見えないケアラーとも呼ばれ、いかにして発見するかが重要なポイントであり、周囲の人達に対する啓発活動も必要な支援と考えられました。
イギリスの福祉サービスも、子供の福祉サービスと大人の福祉サービスが分かれています。それぞれが縦割りとなっている制度の中において、ヤングケアラー支援が行政のどの部署でどのように行われるのか不明確であったとされています。このような背景から、ヤングケアラー支援を専門とする「ヤングケアラー・プロジェクト」が各地で立ち上がり、今では300を超えるプロジェクトがあると言われているようです。
イギリスで行われた支援
- 情報提供のサービス
(ケアラーの休息や権利、安全確保や地域のサービス。) - 実際の支援
(ケアラー同士のグループ活動、カウンセリング、セラピー。) - ケアラーのトレーニングやワークショップ
(ケア対応力強化、各種ワークショップ。) - 金銭面の支援
(各種年金、住宅や住民税の支援。) - ケアラーの就労に関する支援
まとめ
ヤングケアラー支援を先進的に取り組んでいるイギリスでもまだまだ課題は多い。日本ではケアラー支援の国のモデル事業として、サービスへつなぐコーディネーターの配置や、悩み相談を行う団体への支援、ケアラーが悩みを共有する場所作りなどが実施されていますが、まだまだ制度やサービスは発展途上なのが現状です。
②ヤングケアラーがSOSを発信しやすい環境作りや、ヤングケアラーに対する大人の理解力の向上。
③高齢・障がい・医療・行政等の連携体制を構築し、ヤングケアラーとともに家族全体を支援する。
④ヤングケアラーが行うケアが終結した後には、人間関係の再構築や就労支援などのアフターケアも必要。